My Funny Footnote

映画のことをノートしていきます。

アリ・アッバシ監督『ボーダー 二つの世界』(2018)

U-Nextでアリ・アッバシ監督『ボーダー 二つの世界』を見た。 border-movie.jp 新作の『聖地には蜘蛛が巣を張る』を見て興味を持った。監督はもともとイラン出身でスウェーデンに移り住んだらしい。新作がイランの現実に向き合ったものであるのに対して、ボ…

アレクサンドル・ソクーロフ監督『独裁者たちのとき』(2022)

ソクーロフの『独裁者たちのとき』を見た。 www.pan-dora.co.jp 見方によっては、悪ふざけにしか見えないかもしれない。ある面ではまさにそうだ。独裁者への諧謔的な悪意、嗜虐的精神がなければ、こんなこと思いつきはしないだろう。 しかしこの怪作は、誰が…

トッド・フィールド監督『TAR/ター』 (2023)

話題の『TAR/ター』を見た。 gaga.ne.jp 監督のトッド・フィールドという人は知らなかった。他の作品も見てみたい。 主人公のリュディア・ターは、ベルリンフィル初の女性指揮者にして、作曲家として世界中で評価され、キャリアに非の打ちどころがない。女…

キム・セイン監督『同じ下着を着るふたりの女』(2021)

一人称視点か、あるいは異常に接近した三人称の視点で、「女性」の領域に入っていく。 こういうタイプの映画はここ10年ほど良作が非常に多いように思う。思いつくままに、キム・ボラの『はちどり』、ロアン・フォンイー『アメリカから来た少女』、ヘンリカ・…

コゴナダ監督『アフター・ヤン』(2021)

公開された時に見ようかと思って悩んだ挙句、結局見なかった『アフター・ヤン』を見た。 www.after-yang.jp というかコゴナダ監督は、『コロンバス』を撮った人だったのか。気づかなかった。 世界の片隅の、日陰の、親密な空間を思わせる淡色と薄明の世界観…

ダルデンヌ兄弟監督『トリとロキタ』(2023)

Denkikanで『トリとロキタ』を見た。 bitters.co.jp 最初の場面。ロキタが質問を受けている。視線は正面から彼女を捉える。のちに明らかになる通り、ここで彼女は嘘をついている。そこに何か考え込まされるものがある。 正面から彼女を問いただす視線は、公…

マリア・シュペート監督『バッハマン先生の教室』(2021)

ドイツ映画祭 HORIZONTE 2023で、マリア・シュペート監督『バッハマン先生の教室』を見ることができた。東京にいる日程的にこれしか見られないのが残念。 www.goethe.de ドイツ映画祭のテーマは〈道を開く女たち〉というだが、『バッハマン先生の教室』のテ…

C.B. Yi 監督『マネーボーイズ』(2021)

新宿シネマートでC.B. Yi 監監督『マネーボーイズ』を見た。 変わった名前だけど、軽く調べた限りではプロフィールはよく分からない。 なんでもミヒャエル・ハネケに「師事」したらしい。ただ彼が何らかの学校で映画を教えているとインタビューで見たことが…

ダニエル・シュミット監督『書かれた顔 4Kレストア版』(1995/2023)

ユーロスペースで『書かれた顔 4Kレストア版』を見ることができた。 kakaretakao.com 伝統芸能の世界はほぼ無知であるも同然なので、自信をもって言えるほどのことはほとんどない。ただ「映画」として見ただけだ。そして映画として、腰を抜かすほど素晴らし…

ミシェル・フランコ監督『ニューオーダー』(2020)

見たいと思いつつ映画館で見られなかった『ニューオーダー』をU-NEXTで見た。 klockworx-v.com 暴力はダメだと人は言う。それは分かっている。でもそのあまりに教科書な言い方に、何となく釈然としないものを覚えることもある。それって現実が見えてないんじ…

オリヴィエ・アサヤス監督『イルマ・ヴェップ』(1996)

filmarks.com 「映画についての映画」が好きだ。 「映画がうまくいかないことについての映画」は、ほとんどもう無条件に好きだ。 フェリーニの『8 1/2』はもちろん。ウカマウ集団の『鳥の歌』も。『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』も。(なんか変な例し…

チウ・ション監督『郊外の鳥たち』(2023)

イメージフォーラムで『郊外の鳥たち』を見た。 www.reallylikefilms.com 監督のチウ・ションは、中国映画の第8世代に属するらしい。 胡波(フー・ボー)、畢贛(ビー・ガン)、顧曉剛(グー・シャオガン)を見てきたが、不思議なことに、いつもそこにはタル…

ジョナ・ヒル監督『Mid90s ミッドナインティーズ』(2018)

www.transformer.co.jp カミング・オブ・エイジもので、いざというときに真面目なことをちゃんと言える友人、正しい行動を取れる友人にずっと憧れがある。 一番最初の記憶では、『スタンド・バイ・ミー』のリヴァー・フェニックス。最近だと、エリザ・ヒット…

ジョン・カサヴェテス監督『アメリカの影』(1959)

冒頭のダンスホール。一人黒いたたずまいの男。物憂い顔。ベン・カルーザス。ほとんどルー・リードのような深い哀愁を見せる。エリア・カザン的な、というかジェームズ・ディーン的な物憂いショット。 THE FILM YOU HAVE JUST SEEN WAS AN IMPROVSATION. 最…

リューベン・オストルンド監督『逆転のトライアングル』(2023)

gaga.ne.jp 先日、熊本のデンキカンで鑑賞。 前作『ザ・スクエア 思いやりの聖域』の風刺の容赦のなさはそのままに、明快さ、分かりやすさ(オストルンド自身は「アメリカ映画」的と言っている)がプラスされた。前回カンヌを制したなら今回も、と思わせる。…

ユホ・クオスマネン監督『コンパートメントNo.6』(2021)

comp6film.com www.youtube.com 90年代のロシア・モスクワ。フィンランド人女性の大学生ラウラ(セイディ・ハーラ)は、古代遺跡の「ペトログリフ」を見るために、列車で一人旅をする。 冷戦後可能になり、2022年以来プーチンによってぶち壊された世界が描か…